はじめに

 6V6CSPPの製作時にARITOさんから、「SG電源を定電圧化するといいですよ。」と助言を頂いたのを切っ掛けにシミュレーションを繰り返してやっと助言の意味が見えてきたました。 しかし6V6GTのSGはプレート電圧と同じ電圧で使うつもりだったので、SG電源を安定化しようとすると専用電源が必要になるため「ならば、SG電圧を低くしなければならないTV球で挑戦しよう!!」 ということで、白羽の矢が立ったのが格安で入手できるこの15KY8Aです。

 このアンプは、色々な意味で私にとって記念すべきアンプとなりました。まず第一に真空管も半導体も誰一人死傷者が無く仕上がりました。いつも作成するたびに犠牲者を出していたので大いに記念すべき事です。 第二に、初めてのTV球のアンプを製作してTV球でもポピュラーなオーディオ球と遜色ない音がするという事が解った事。 第三に、SG電源の定電圧化に成功したらしいという事。 第四に、PSDCの調整が計算通りに効いているらしい事。 最後に、efuさんのWaveSpectraの使いこなしが、やっと解ってきた事です。(今回の歪率の測定は、劣悪な環境での測定にしては上手く行ったのではないかと思います。)

 15KY8A

 この球はfor Vartical-Deflection Oscillatorの記述からするとTVの垂直同期信号発生回路用なのでしょうか?何か解りませんが、私にとっては初めてのTV球です。 この球を使用して ARITOさんがカソードフォロアプッシュプルアンプTannnoyistさんがCSPPアンプを、 既に製作されていますので、電源トランスはTannnoyistさんと同じノグチPMC-190Mを使用しヒーター電源も参考にさせて頂きました。 ソケットはNorvar-9pinですが、購入したソケットが怪しくスカスカで逆さにすると真空管が抜け落ちてしまうほどでした。 しょうがないので錐の先で何とかタイトにするのが最初の仕事でした。

 KA-6635PUL

 OPTは春日無線のKA-6635PUL(改)です。このOPTは、6V6-CSPPを製作するときから使用してみたかったOPTです。 店頭で「SG端子は50%ですか?」と尋ねた所、「違います。」と言う答えだったので、前回は東栄変成器のOPT-20Pとなった次第です。 しかし、やはり気になってメールにて質問した所、「50%です。」との回答で即、決定です。

 使ってみたかった理由は第一に、 菊地さんが島田式CSPP の実験をされている時に、高域特性が良好とのレポートが有った事。次は、このOPTは低インダクタンス・タイプで最大でも僅か60Hとなっていることから、直流抵抗が少ないだろうと想像できた事。 実際に計ってみてもB-P1・B-P2どちらも35Ω程度しか有りません。OPT-20Pの1/4です。シミュレーションによれば、直流抵抗は小さいほど歪率は低くなるようです。 (勿論、その差は私の測定で確認できるようなレベルではないのですが。) 最後にもうひとつ、このOPTは2次側が4, 6, 8, 12, 16Ωと多彩に用意されているため、出力管の負荷インピーダンスを色々確認できそうである事も大きな理由です。 改造は左の表の通りで簡単に言えば、B・SG1・SG2に2本ずつ繋がっている巻線を独立して引き出しただけです。 (ですが、勿論メーカーの保障はされなくなるし、私も保障は出来ませんので追試をされる方は御自身の責任にて行ってください。) 尚、このOPTはP2と2次側が同相となっていますのでP2を出力管のP1にP1を出力管のP2に接続しています。

1.外観

2.内部

 今回は真空管が2本減ったものの6V6CSPPの変更で学んだ熱対策の目的でカスケード用のTrを独立させたり、SG電源の低電圧回路を追加したために私の力量からすれば、もう限界の混雑ぶりです。 実際、組み立て不可能なアセンブリをして、アイデアが浮かぶまで何度も頓挫してしまいました。今回も半年も掛かったのは半分はその時間です。

 アルミパイプを使いセレクタのシャフトを延長した所は前回と同じです。

 SG電源用のMOS-FETはケースに貼り付けたのですが、ケース自体が40度位にはなるので専用放熱板の方が良かったかも知れません。

 2SC5460の放熱板は6V6-CSPPの変更で余った放熱板を使用したのですが50度くらいになっている感じです。

3.回路

 電源電圧は完成後の実測値に近い値にして有ります。

 回路は基本基本的に6BM8CSPPと同じ超三接続ですが、回路図の上の方に今回の目玉であるSG電源の定電圧回路が追加されています。

 定電圧回路はQ5(Q6)とD1(D3)のツェナーダイオードで定電流回路を構成し、R21(R16)でSG電圧を決定しました。電圧を決定する抵抗が120kと大きいのと出力管の近くに配置するので温度特性には特に気を使って、温度保障のためのD4(D2)とQ5(Q6)は熱伝導性のシリコンを使って熱結合しました。 更に、ツェナーの温度特性がニュートラルとなる1.165mA(実測しました)が流れるようR19(R23)の220kを選別しました。この選別は効果があったようで、変動は1V以内に収まっているようです。

 PSDCの定数は回路図の通りです。バイアス電流調整用VR(VR2)の下のLED(D5)はVR2をシミュレーション値と近づけるための電圧の嵩上げです。このLEDは温度変化の影響を避けるためケースの下のほうに(初段の基板はフロントパネルの裏に縦に配置しています。)配置しました。

 また電源電圧の変動をカレントミラー(Q3,Q7)で受けていますが、6V6-CSPPの改良で説明しているように温度変化の影響を気にして熱源(カスケードの2SC5640(Q1, Q2))を遠ざけたので抵抗だけで受けても平気かも知れません。

 ただ、エアコンをOFFにして確認した所、室温が30℃を越えるような状態で風を当てずに長時間使用するとバイアス電流は25mA位まで下がってします。尤も、このような状態で長時間音楽を聴いていたらこちらも参ってしまいそうです。

 直結アンプはドリフトとの戦いで、やっとその難しさがわかってきた今日この頃です。

4.電源

 本機の電源です。トランスはノグチのPMC-190Mです。前述の通りヒーター電源はTannoyistさんに習って、2.5V+6.3V+5Vで点灯して嵩上げ電源(250V)でヒーター・バイアスを掛けています。

 嵩上げ電源は180Vの中間タップから倍圧整流で得ています。マイナス電源は6.3Vをヒーター電源の電圧が足りない時の為に温存したので、5Vの倍圧整流で-15Vです。

 B電源は無負荷時305V(560V)/有負荷時255V(505V)、嵩上げ電源は無負荷時255V/有負荷時250Vとなりました。

5.OPTの改造

 私は改造好きのおじさんなのでOPTは改造版ですがノーマルな方には、ARITOさん設計の高性能バイファイラ巻トランス 染谷電子のASTR-20をオススメします、市販のトランスを改造して用いる必然性は全く有りません。 バイファイラ巻のASTR-20なら、上下管のプレートとカソードをクロスして繋いでいる高耐圧・大容量(今回は450V/390μFを使用)2個(左右で計4個)のコンデンサーも不要なため製作も楽になります。

改造仕様 KA-6635PULの直流抵抗を測ってみると左上の表ように、想像どおり直流抵抗は小さな値です。この表から左下左のような結線であろうと想像し、内側の2つのレイヤーをカソード側で外側の2つをプレート側で使用することに決めました。 具体的には、SG1・B端子の結線をバラして、間違わないように色分けした7本の線(SG2改造後Bとして使用)を引き出しただけです。(追試をなさる方は、御自分の責任でお願いします。)

 シミュレーションだと2次側は12Ωに8Ωを接続して3.3kとして使った時が最大出力・歪率共に良好だったのでその様に製作したのですが、実際に測定してみると8Ωに接続した方が最大出力大きくなりました。 シミュレーションで使用したモデルは、私が作成したナンチャッテモデルなので、8Ωに接続して5kで使用することに即決定です。

6.諸特性

 歪特性 WaveGenとWeveSpectraを使っての歪率測定ですが、パソコンの内臓ボードを使用しているためS/N比が70dB未満という事を念頭にご覧下さい。 「測定環境を整えれば、もっと良い特性のはず。」という希望的観測を含めて個人的には大変満足な特性です。最大出力も17WとSG電源の定電圧化の賜物だと思っています。

 最大出力 Lch:17W (THD+N 2.0%) Rch:17W (THD+N 3.7%)

 総合利得 Lch:14.6倍(23.3dB)  Rch:14.6倍(23.3dB)

 残留雑音 Lch:0.36mV以下  Rch:0.44mV以下

 D.F    Lch:17.5(1.0W ON/OFF法) Rch:16.8(1.0W ON/OFF法)

 周波数特性 WaveGenとWeveSpectraを使って一応20~20kHzの周波数特性を確認が当然の如く一直線なので画像は割愛しました。 このトランス小型軽量の部類に入ると思うのですが、20Hzでも-0.5dBでした。 この-0.5dBはDCバランスサーボの積分回路のCの値が少し小さい(220μF)のではないかと思います。 トランスの低域特性を調べてみた所、20Hzでも4W位までは波形が崩れずに出力されました。

7.雑感

 個人的な感想ですが、Tannoyistさんが仰っている通り、このアンプは爽やかで上品な音がします。 ねちっこい所が魅力みたいな音の6V6-CSPPとは方向性が違う音のように感じられます。 私はJAZZしか聞きませんが室内楽とかが似合いそうな感じです。 実際このアンプを使って映画を観ていたのですが、バックで流れていたハープシコードの音がとても魅力的に聞こえました。 そして、スローなJAZZを心地よく奏でてくれます。

 何より、立体的な音の中に浸れるのはCSPPアンプの特徴です。 「この音を聞いているのは、世界中で私一人なのだ。」という少々サディスティックな自己満足という至福の時間を与えてくる自作の世界、止められそうに有りません。

 一本百円のTV球万歳!!

 CSPP万歳!!です。

 最後になりましたが、SG電源の定電圧化並びにTV球への初挑戦の機会を与えて頂いたARITOさん、ありがとうございました。

 御質問は、掲示板または、メール(cspp110@gmail.com)にて、お願いします。

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