目次

1.LTSpiceについて

 LTSpiceはリニア・テクノロジー社が提供している無料の回路シミュレータです。 初めて「使ってみようか?」と思った時にダウンロードして無償で使用できるのは、本当に助かります。
 基本的な使い方や真空管アンプをシミュレートするための設定は、私も大変お世話になった
・LTspiceを使う
・LTspice/SwitcherCAD IIIを使いやすくする
を参考にして下さい。私も、こちらのHPの説明に従って環境を設定しました。
 このページでは、重複もあるかもしれませんが私が気づいた事や初めて使う方に役立つと思った事をメモって行きたいと思います。
 尚、間違いのご指摘・ご質問などは CSPPとLTSpiceの掲示板に御願いします。

2.Runを実行すると

 回路を描き終えて最初にSimulate(または右クリック)メニューよりRunを実行すると、左のダイアログボックスが表示されます。

Transient 信号波形を観測したい場合に使用します。通常設定するパラメータは、Stop Time(シミュレーション終了時間)とTime to Start Saving Data(シミュレーション情報採取開始時間)くらいです。 私の場合、電源オン時の過度特性を見たい時にStart external DC supply voltage at 0Vチェックボックスを稀にチェックする時が有りますが、他のパラメータやチェックボックスは使用したことが有りません。
 この例の場合1kHzの波形を4サイクル分採りたかったので、開始2ミリsec後から6ミリsecまで4ミリsec分採取しています。 2ミリsec後からにしているのは、開始直後の過度特性の波形を除くためです。

 一度Runを実行するとSpiceのコマンドラインが回路図上にテキスト(上の例だと".tran 2ms 6ms"が保存されます)で保存され、 次回からはその値を使用してRunが実行されるので、変更は保存されたテキストを右クリックして行います。

AC Analysis 周波数特性を見たい場合に使用します。通常設定するパラメータは、 真空管アンプのシミュレーションの場合、左の設定で充分だと思います。 内容は上から、オクターブ単位・オクターブ辺り10ポイント・1Hzから1MHz(LTSpiceで1Mだけだとミリ(×1000)と解釈するのでメガの場合Megと入力します)までという指定になります。
このとき使用される信号の振幅値は、サインカーブの指定をしたVoltageのAC Amplitudeパラメータで指定された値が使用されます。

DC sweep VoltageのDC電圧が変化した時の特性を知りたい場合に使用します。(私はPSDCの抵抗値を決定する時にいつも使用します。)
1st Source・2nd Source・3rd Sourceと3つまでVoltageを変化させる事が出来ます。
Name of 1st(2nd or 3rd) Source to Sweep:変化させたいVoltageの名前を指定します。
Start Value:開始値
Stop Value:終了値
Increment:ステップ
3.DC sweepの使用例を参照してください。

DC sweep のもう一つの使い方として
Name of 1st Source to Sweep:にtempと入力し、Start Value・Stop Valueに温度を設定すると、温度変化(この例だと-15~115度)による電流・電圧の変化をシミュレート出来ます。

3.DC sweepの使用例

 左のような回路を作成し、 1st SourceでVpを0~650V、2nd SourceでVgを10Vステップで-80~0V変化させる設定をして実行すると、 右のように3極管モデルのVp-Ip特性のシミュレーションを行う事が出来ます。

4.矩形波の設定

 Voltageにサイン波や矩形波信号源の設定をする場合はAdvanceボタンをクリックして、 SINE(サイン波)・PULSE(矩形波)を選択して行いますが、 サイン波の設定は基準電圧(DC offset)・振幅電圧(Amplitude)・周波数(Freq)の3つを設定すれば充分なので簡単ですが、 矩形波のパラメータ設定は少し厄介なので、矩形波のパラメータの関係を左図にまとめてみました。

5.CSPP用OPTを作成する

 CSPP用のOPTが必要なので次のような手順で作成しました。

1. ・LTspice/SwitcherCAD IIIを使いやすくするに従ってLTSpiceをカスタマイズすると、 C:\Program Files\LTC\SwCADIII\lib\sym\Miscの配下にDEPP用のpp_opt.asyが作成されています。

2.まずpp_opt.asyをコピーしてpp_opt_w.asyにリネームします。

3.pp_opt_w.asyをダブルクリックすると左上段のDEPP用のトランスのシンボルが表示されますので、 この図形を編集して下段のようなCSPP用のトランスのシンボルを作成します。

  CSPP用のトランスの場合接続端子が多くインダクタンスの名称(L1・L2・L3)だけでは解り辛いので、 名称を削除して接続端子にラベル(P1..GND)を設定しました。
私の場合、2次側のOUTとGNDはGNDを接地した場合にOUTがP1と同位相になるように設定しましたが、 逆にしたい場合は次の接続端子の設定を参考にして下さい。

接続端子の設定 接続端子(シンボルの編集画面上ブルーの□で囲まれた小さなオレンジの○です)にラベルを設定する場合、 接続端子を右クリックしてPin/Port Properties(左図)を使用します。 Labelを入力して表示位置(LEFT・RIGHT・TOP・BOTTOM)を設定すると回路図上にラベルが表示されるようになります。
(NONE(Not Visible)のままだと表示されません。)表示位置の指定はラベルに対する接続端子の位置らしく、LEFTを指定するとラベルは接続端子の右側に表示されます。

Version 4
SymbolType CELL
LINE Normal -272 -64 -272 -32
LINE Normal -144 -64 -144 -32
LINE Normal -128 -64 -128 -32
LINE Normal 0 -64 0 -32
LINE Normal 153 -5 -278 -5
LINE Normal 153 4 -278 4
LINE Normal 16 -64 16 -32
LINE Normal 144 -64 144 -32
LINE Normal 0 64 0 32
LINE Normal -128 64 -128 32
LINE Normal -144 64 -144 32
LINE Normal -272 64 -272 32
ARC Normal -248 -48 -216 -16 -244 -44 -220 -44
ARC Normal -272 -48 -240 -16 -272 -32 -244 -44
ARC Normal -224 -48 -192 -16 -220 -44 -196 -44
ARC Normal -200 -48 -168 -16 -196 -44 -172 -44
ARC Normal -176 -48 -144 -16 -172 -44 -144 -32
ARC Normal -104 -48 -72 -16 -100 -44 -76 -44
ARC Normal -128 -48 -96 -16 -128 -32 -100 -44
ARC Normal -80 -48 -48 -16 -76 -44 -52 -44
ARC Normal -56 -48 -24 -16 -52 -44 -28 -44
ARC Normal -32 -48 0 -16 -28 -44 0 -32
ARC Normal 40 -48 72 -16 44 -44 68 -44
ARC Normal 16 -48 48 -16 16 -32 44 -44
ARC Normal 64 -48 96 -16 68 -44 92 -44
ARC Normal 88 -48 120 -16 92 -44 116 -44
ARC Normal 112 -48 144 -16 116 -44 144 -32
ARC Normal -24 48 -56 16 -28 44 -52 44
ARC Normal 0 48 -32 16 0 32 -28 44
ARC Normal -48 48 -80 16 -52 44 -76 44
ARC Normal -72 48 -104 16 -76 44 -100 44
ARC Normal -96 48 -128 16 -100 44 -128 32
ARC Normal -168 48 -200 16 -172 44 -196 44
ARC Normal -144 48 -176 16 -144 32 -172 44
ARC Normal -192 48 -224 16 -196 44 -220 44
ARC Normal -216 48 -248 16 -220 44 -244 44
ARC Normal -240 48 -272 16 -244 44 -272 32
WINDOW 0 17 22 Left 0
SYMATTR Prefix X
SYMATTR Description Transformer
PIN -272 -64 LEFT 4
PINATTR PinName P1
PINATTR SpiceOrder 1
PIN -144 -64 RIGHT 4
PINATTR PinName B1
PINATTR SpiceOrder 2
PIN -128 -64 LEFT 4
PINATTR PinName B2
PINATTR SpiceOrder 3
PIN 0 -64 RIGHT 4
PINATTR PinName P2
PINATTR SpiceOrder 4
PIN 0 64 RIGHT 4
PINATTR PinName K2
PINATTR SpiceOrder 5
PIN -128 64 LEFT 4
PINATTR PinName E2
PINATTR SpiceOrder 6
PIN -144 64 RIGHT 4
PINATTR PinName E1
PINATTR SpiceOrder 7
PIN -272 64 LEFT 4
PINATTR PinName K1
PINATTR SpiceOrder 8
PIN 16 -64 LEFT 4
PINATTR PinName OUT
PINATTR SpiceOrder 9
PIN 144 -64 RIGHT 4
PINATTR PinName GND
PINATTR SpiceOrder 10

大事なこと このPin/Port Propertiesの設定で一番大事なことは、 Netlist Orderの設定をSpiceモデルの.SUBCKTの引数の順番と一意させることです。 (シンボルのラベルと.SUBCKTの引数の名称は関連が無く順番とNetlist Orderの番号で関連付けが行われます。)
 私の作成したSpiceモデルの.SUBCKTは、
.SUBCKT RX-40-5 P1 B1 B2 P2 K2 E2 E1 K1 S1 S0
となっています。このためNetlist Orderの設定は
P1=1・B1=2・B2=3・P2=4・K2=5・E2=6
E1=7・K1=8・OUT=9・GND=10
にしています。
 これはシンボルのOUTは.SUBCKTのS1にGNDはS0に関連付けられる事を意味します。

4.以上の編集が終了したら、pp_opt_w.asyを保存します。

面倒な場合は コピー・リネームして作成したpp_opt_w.asyを アプリケーションから開くのNotepadで開いて、内容を全て左のテキストに置き換えて保存してください。 (この場合はシンボルを作成するための1~4の作業は必要有りません。)

*
* RX-40-5
*
.SUBCKT RX-40-5 P1 B1 B2 P2 K2 E2 E1 K1 S1 S0
* Primary inductance (p-p 6600ohm 350H)
L11 P1 11 21.875H
L12 12 P2 21.875H
L13 13 K1 21.875H
L14 K2 14 21.875H
* Primary DC resistance
R11 11 B1 30.18
R12 B2 12 30.12
R14 14 E2 33.66
R13 E1 13 33.68
* Primary stray capacitance
CP P1 P2 9.84394549732915e-10
CE K2 K1 9.84394549732915e-10
* Secondary inductance (8ohm)
L21 S1 21 0.468005739H
* Secondary DC resistance
R21 21 S0 0.408279
* coupling factor
K1 L11 L21 0.999932697982668
K2 L12 L21 0.999932697982668
K3 L13 L21 0.999932697982668
K4 L14 L21 0.999932697982668
K5 L11 L12 0.999832697982668
K6 L11 L13 0.999832697982668
K7 L11 L14 0.999832697982668
K8 L12 L13 0.999832697982668
K9 L12 L14 0.999832697982668
K10 L13 L14 0.999832697982668
.ENDS

5.RX-40-5(改)のSpiceモデル作成例

左は私が作成したRX-40-5(改)のSpiceモデルです。(直流抵抗だけは実測ですが、その他の性能について Softon RX-40-5との整合は捕っていません。) DEPPと使用して二次側に8Ωを接続した場合およそ6.5kΩ位の設定になっていますので、 このテキストをC:\Program Files\LTC\SwCADIII\lib\transの配下にRX-40-5.incとして保存すればCSPP用トランスのSpiceモデルとして使用が出来ます。

6.ASTR-20(5k)のSpiceモデル作成例

*
* ASTR-20_5k
*
.SUBCKT ASTR-20 P1 B1 B2 P2 K2 E2 E1 K1 S1 S0
* Primary inductance (p-p 5000ohm 200H)
L11 11 B1 12.5H
L12 B2 12 12.5H
L13 E1 13 12.5H
L14 14 E2 12.5H
* Primary DC resistance
R11 P1 11 73
R12 12 P2 73
R14 14 K2 73
R13 K1 13 73
* Primary stray capacitance
C11 11 B1 580p
C12 B2 12 580p
C13 E1 13 580p
C14 14 E2 580p
* Iron Loss
RI1 B1 11 150E+03
RI2 12 B2 150E+03
RI3 13 E1 150E+03
RI4 E2 14 150E+03
* Secondary inductance (8ohm)
L21 S1 21 0.3584H
* Secondary DC resistance
R21 21 S0 0.526
* Secondary stray capacitance
*C21 S0 S1 1000p
* coupling factor
K1 L11 L21 0.9999583607
K2 L12 L21 0.9999583607
K3 L13 L21 0.9999583607
K4 L14 L21 0.9999583607
K5 L11 L12 0.99993950897
K6 L11 L13 0.99993950897
K7 L12 L14 0.99993950897
K8 L13 L14 0.99993950897
K9 L11 L14 0.99999975
K10 L12 L13 0.99999975
.ENDS

 CSPP専用のバイファイラ巻OPT 染谷電子 ASTR-20(5kΩ)のSpiceモデル(左)を作成してみました。
 上はこのモデルのインピーダンスのシミュレーションです。
  赤:二次解放
  青:二次8Ω負荷
  桃:二次ショート
 二次解放と二次ショート時は余りあっていませんが、8Ω負荷時の高域がなるべく近くなるように設定してみました。

6.真空管・OPTを使う

.SUBCKT(Spiceモデル)のファイルを指定する EditメニューのSpice Directiveコマンドを使って、左のテキストを回路図上の任意の場所に配置します。
.libコマンドで真空管のライブラリーを指定していますが、真空管はライブラリー化されているのでいつもこの指定です。

一方OPTはライブラリー化されていないため.includeコマンドを使用して必要なOPTのファイル名を直接指定します。

.SUBCKT(Spiceモデル)とシンボルを結びつける 真空管やOPTのシンボルを右クリックすると、 左のようなダイアログボックスが表示されるので、項目Valueに.SUBCKTの名称(左の例ではOPT-10P_5k)を入力します。
この.SUBCKTの名称はSpiceモデルのファイル名では無く、Spiceモデルの定義の中で.SUBCKTコマンドのすぐ隣に書かれている名称です。
左の例では.SUBCKTの名称とSpiceモデルのファイル名が一致していますが、一致している必要はありません。

7.インピーダンスのシミュレーション

 左の回路(クリックで拡大できます)ASTR-20(5kΩ)のSpiceモデル(.SUBCKT)を作成する時に使用した回路です。
 LTSpiceのincludeファイルの修正機能は使いづらいので、私はこのようにEditメニューのSpice Directive機能を使用して直接テキストを貼り付けて完成後にテキストファイルに保存しています。
 この回路でACシミュレーション(1~1MHz)を実行します。

 左は実行結果の表示ですがView画面の右クリックで現れるAdd Plot Plane機能を使ってグラフを3つ表示させています。
 上よりラベルAの電圧・抵抗R1の電流・P1-P2間のインピーダンスを表示しています。ここでP1-P2間のインピーダンスの表示のさせ方ですが、 View画面の右クリックで現れるAdd Trace機能を使いこのように入力します。
 V(A)/I(R1)はA点の電圧÷抵抗R1に流れる電流を意味しますのでインピーダンスを表示できます。(私はここに式を書けることを知らなかったので、暫く手(勿論Excelにやらせました)で計算していました。(笑))
 目盛りはそれぞれの目盛りをクリックしてこのように設定しています。 また、位相(Phase)は右側の目盛りをクリックすると出てくるDon't Plot Phaseをクリックして消しています。

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