はじめに
このページは、素人の私がCSPPを理解するために行ったシミュレーションを綴ってみました。 Webで調べたりベテランの方のお話を伺うと「CSPPは難しい。」という言葉を良く耳にします。ところが私には何が難しいのか解りませんでした。 これは何故か?私にはDEPPの常識が無かったからです。つまり、私にとってCSPPもDEPP・SEPPも同列に皆難しかったという事です。 私が理解する過程を記述したものなので非論理的なところも多分にあるかもしれません。 論理的な解説は上條さんの CSPP回路の基礎解説を参照して下さい。 尚、間違いのご指摘・ご感想・ご意見は CSPPとLTSpiceの掲示板に御願いします。
CSPPとは
1.プッシュプルって何?
CSPP(クロスシャント・プッシュプル)は、プッシュプル合成の一方式です。
プッシュプルとは別々のアンプで増幅されたサイン波の上側と下側を合成して効率よく増幅しようという技術です。
青:左の回路よりU2・V3を削除して、U1・V2だけを動作させた時のOUTの波形。
緑:左の回路よりU1・V2を削除して、U2・V3だけを動作させた時のOUTの波形。
赤:両方を動作させた時のOUTの波形。
出力トランスにより上下の波形が合成されている事が良くわかります。
2.CSPPの基本回路
上図右は合成の様子で、
青:U1のプレート電流。
緑:U2のプレート電流。
赤:負荷(RL)に流れる電流。
DEPPのシミュレーションと異なり何故電流なのかというと、CSPPはSEPPやコンプリメンタリー回路と同じように上下管のP-K間の電圧の合計が等しくなるように動作し、負荷にはその電位差に応じた電流が流れるためU1・U2・RLの電圧変動は等しく、電流の方が合成の様子がイメージしやすいからです。 (RLに流れる電流はその両端の電位差に応じた電流が流れるだけなので、U1・U2のプレート電流が合成されるという意味ではありません。) この動作は定電圧型差動回路と言えると思います。(そんな言葉があるかどうかは知りませんが?) DEPPとCSPPの大きな違いはこの回路を見れば明らかですがDEPPがプッシュプル合成をトランスに頼っているのに対して、CSPPはトランスを必要としないことです。 このことを利用して、OTL(Output Trans Less)が可能でARITOさんが 6C19P クロスシャントプッシュプルOTLアンプで制作されています。
3.CSPPのバリエーション
また、この3つの回路は全てカソード基準で入力を与えているため、左図のSEPP回路の負荷(RL)の両端に発生する電圧も等しくなります。
つまり、カソード基準で入力を与える限りCSPPの動作はSEPPと同じです。
CSPPは対となる真空管のプレートとカソードが接続されているため、上図のように五極管のスクリーン・グリッドを互いのプレートに接続する事で安定した電圧を与える事が可能です。 が、左図のようにSEPPは専用の電源が必要になります。
中点接地とKNF
そこで確認のためにシミュレーションで1kHzにおける利得と内部抵抗を求めてみました。(内部抵抗はON/OFF法により求めました。)
KNF無 | KNF有 | |
利得 | 17.7倍 | 1.8倍 |
内部抵抗 | 26kΩ | 265Ω |
・出力の中点を接地する事で上下を完全に対称にする。
・50%のKNFにより低出力インピーダンスを得る。
という使い方が最もCSPPらしい使い方なのかもしれません。
4.マッキントシュタイプCSPP回路
憧れのマッキントッシュタイプCSPP回路は、交流回路の知識の無かった私にとってかなり難解でした。
右の回路は、「L1・L4・C2とL2・L3・C1がフローティング電源を構成していてOPTがそれを兼ねている。」など交流回路の常識など持ち合わせていなかった私には解るはずがありませんでした。
CSPP回路の基礎解説を後から読み直してみれば、キチンと述べられているのですが、理解できていなかったんですねぇ~!
何をみて気付いたのかと言うと、 上條さんの超3極管接続Ver.3 EL86 SEPP ステレオパワーアンプのスクリーングリッド電源の回路をみたからです。
左の回路のバイファイラ巻OPTは、1個でL1~L4・C1・C2と負荷R1・R2を全て兼ねている事になります。(なぁ~んとスマートなんでしょう!!)
2段増幅のCSPP回路
そこでバイファイラ巻OPTを使用したマッキントッシュタイプCSPP回路のバリエーションを試してみました。
次の4つの回路は全て初段はJ-FETと高耐圧Trによるカスケード接続による2段増幅回路です。
初段のJ-FET及びNF回路(R1・R7)の定数は本来それぞれの方式で調整すべきなのでしょうが、比較の為に全て同じにしています。位相補正のC1は、NFを掛けた場合の周波数特性がフラットになるように値を入れていますがこの値はシミュレーション上の値です。
また、全段直結にすると電源変動や温度変化による出力段のプレート電流の変動を制御する必要があるのですが、シミュレーションを楽にするために考慮していません。
別段、全段直結に拘っているわけでは有りませんが、AC結合にするとシミュレータの収束が遅くなって時間がかかるので直結にしています。(何か定常状態を保持する方法があると思うのですが、残念ながらそれ程LTSpiceを熟知していません。)
2~4の回路で200kHz以上のゲインを減少させるためにC3(10pF)で初段のTrのコレクタを結合していますが、これは私の作成したOPTのSpiceモデルの問題かも知れません。
左の回路は初段の負荷(R3・R4)を出力管のカソードに接続しているので出力段への入力はカソード基準となり、KNFは無効になります。
裸の利得:37.4倍
裸のD.F:0.04
オーバーオールのNF無しでは実用にはなりそうにありませんが、利得が足りなさそうです。
2.ブートストラップ回路(クリックで拡大できます)
左の回路は初段の負荷(R3・R4)を対抗する真空管のプレートに接続されており、そのプレートはカソードと同じ振幅をするので入力はカソード基準となり、KNFは無効になります。
グリッド抵抗の直接ドライブに比べ大きな値の負荷抵抗を使用することが出来ます。
裸の利得:232.6倍
裸のD.F:0.07
こちらもオーバーオールのNF無しでは実用にはなりそうにありませんが、グリッド抵抗の直接ドライブに比べ不可抵抗の値が4倍になったので利得が充分にありそうです。
3.KNFを有効にした回路(クリックで拡大できます)
左の回路は初段の負荷(R3・R4)がB+に接続されているので出力段への入力はアース基準となり、50%のKNFが有効になります。
裸の利得:54.8倍
裸のD.F:2.6
充分とはいえないかもしれませんが、オーバーオールのNF無しでも実用にはなりそうです。
4.KNF+PG帰還を利用した回路(クリックで拡大できます)
左の回路は初段の負荷(R3・R4)が出力管のプレートに接続されているので出力段への入力はアース基準となり更にプレートからグリッドへの負帰還がかかります。
裸の利得:30.0倍
裸のD.F:3.75
充分とはいえないかもしれませんが、オーバーオールのNF無しでも実用にはなりそうです。
5.比較
オーバーオールのNFを掛けた状態を比較してみました。
利得 | D.F | NF量 | |
Grid Drv. | 14.21倍 | 1.73 | 8.40dB |
Boot Strap | 20.83倍 | 10.23 | 20.96dB |
KNF | 16.20倍 | 11.54 | 10.58dB |
KNF+PGNF | 13.01倍 | 10.01 | 7.25dB |
並列給電型SEPP回路
並列給電型SEPPは上下管のどちらかのカソード(or プレート)を接地しそれぞれのカソード基準で信号を入力する必要があるためKNFの効果はありません。
つまりドライブ方法としては、
1.グリッド抵抗の直接ドライブ
2.ブートストラップ回路
3.PG帰還を利用した回路
の3種類しか思いつきません。(私の場合です。)
左の回路は初段の負荷(R3・R4)が出力管のプレートに接続されているので出力段への入力はカソード基準とですが出力管のプレートからの帰還が掛かります。
左の回路は3の回路と等価ですが、OPTをプレートとカソード側に分離して接続しキャパシタ(C1)で相対するプレートとカソードを結合する事でフローティング電源の代わりをさせています。(バイファイラ巻のOPTならばC1は不要です)
この方法だとフローティング電源不要かつ一般のDEPP用のOPTが使用可能(スプリットタイプで無い場合は改造が必要)です。
同様の方法で1のグリッド抵抗の直接ドライブも可能ですが、2のブートストラップ回路はOPTの直流抵抗分だけ上下管のプレート・カソード電位がずれるためにすのままでは直結は無理で何か工夫が必要です。
5.比較
比較してみました。
利得 | 利得/NF | D.F | NF量 | |
Grid Drv. | 56.32倍 | 12.70倍 | 4.14 | 13.15dB |
Boot Strap | 412.70倍 | 15.82倍 | 10.23 | 28.33dB |
PG | 29.86倍 | 10.59倍 | 14.69 | 9.00dB |
PG電源無 | 29.63倍 | 10.56倍 | 14.81 | 8.96dB |